(代表中里文子のコラム/2024.11.3)
発達障害(ASD:自閉スペクトラム症)の子どもたちの特徴のひとつに、「内的適応の難しさ」という問題があります。別な言い方をすると、「自己感覚が希薄である・気づきにくい」という特徴があります。「自己感覚」とは「身体感覚」であり、例えば、疲れている、嫌いだ(いやだ)、苦しい(苦痛だ)、怖い、気持ち悪い…などの感覚のことです。この感覚が希薄であると、「疲れていることに気が付かず動き続けてしまう」、「嫌いな人、苦痛や危害を向けてくる人を避けられずにいつまでも一緒にいて傷ついてしまう」、「危険なこと、(もの)を避けられず怪我をしてしまう」といったことが起こります。
自己感覚をモニターできないということは、他者とのコミュニケーションの弱さにもつながってきます。自身の感覚がなかなかキャッチできないため、「痛いからやめて」とか「疲れたからもうやめる」など相手に伝えることができず、結果的に周りの環境や相手のペースに自分を合わせてしまうことになります。それは感覚に限ったことでなく、人とのコミュニケーションでも同じことが学習されており、例えば、「何して遊ぼうか?」とか「どの洋服がいい?」と聞かれても「あ、これが好き!これがいい!」といった自身の心地よい感覚もキャッチしづらく首をかしげるばかりで返事ができないため、最終的には相手が選んだものに合わせることになります。
また、ASDの特徴として、対人関係が上手くできないといわれますが、その理由として「相手の心を理解できない」ことが挙げられます。これは、「心の理論」と呼ばれているものですが、心の理論とは、自分と他者には異なる心の状態が独立してあることを理解する能力のことです。自分と他者の考え方が違うことが分かるようになる心の理論は、4~5歳頃から獲得されると言われています。しかしながら、ASDの子どもではこの機能に障害があります。そのため、他者の視点に立って考えることが難しく、相手の感情が理解できないということが起こってしまいます。
実は、脳科学的には、「他者の心」と「自分の心」を理解するには、脳の同じ部位を使うということです。つまり、「他者の心を理解できない」ということと、「自分の心を把握することが難しい」ことはイコールなのです。ただ、ASDの子どもは心の理論が発達しないのではなくその発達がゆっくりであるため、幼少期に「自己感覚」を育てていく必要があるのです。例えば、感覚や感情など「知覚」のキャッチにおいては、マイナスの感情(不快感:不安感、恐怖、嫌悪感、怒りなど)が表出されたときは肯定的配慮(受容)してあげ、特に気付きにくいプラスの感情(快感:嬉しい、楽しい、好きだなど)は大切に認めてあげる、リピートするなどで自尊感情を高め自己を育てていきます。
日本では「自己主張」することを善とされず、自己主張せずに周囲に合わせ適応することが求められ、適応すれば「良い子・聞き分け良い子」、皆に合わせられないと「ダメな子・出来ない自分は価値がない」という「自己阻害的価値観」を取り込んできました。その根底には「劣等感」が根付いてきますが、思春期になるとその劣等感を過剰に補償しようとしてさらに高い「理想自己」を掲げて頑張り続けます。ここで自己感覚が育っていれば過剰適応から離れることができるのですが、苦しい、辛いなどの自己感覚がキャッチできないとメンタル不全になるなど、二次障害が起こってしまうのです。
ASD等の発達障害児支援では、「早期発見・早期支援」の対応の必要性はきわめて高いと思われます。できるだけ早くその特徴を知り、専門家につなげ訓練やトレーニングの介入につなげていくことで、その先の生きづらさは大いに軽減できるはずです。
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