(代表中里文子のコラム/2024.3.24)
他人は自分とは異なる考え方やものの見方をする可能性があると推測できる能力をもつという理論を「心の理論(デビット・プレマック:1925-2015)」と言います。そして、自分が知っている事実を相手が知らないときに、相手の行動を正しく予測できるかどうかを確かめる方法のひとつに「誤信念課題」があります。この方法は、ハインツ・ウィマー&ジョゼフ・パーナーにより提唱されました。
「誤信念」とは、相手の立場や気持ちになって相手の心や行動が推測できるかどうかという能力のことです。いくつかある「誤信念課題」のうち、2つご紹介してみますね。
① 「スマーティ課題」
・筒形のチョコレートの箱に丸型のマーブルチョコレートが入っている「スマーティ」というお菓子の箱を使います。Aちゃんが見ていないところで、この箱に鉛筆を入れておきます。そして、Aちゃんにこのお菓子の箱を見せて「何が入っているか?」と尋ねます。お菓子の箱を開けると、チョコレートではなく鉛筆が入っています。そして、お菓子の箱を閉じます。Aちゃんに次のように質問します。「箱には実際何が入っていた?」と聞き、また、「この箱をB子さん(この場所にはいない人)に見せたら何が入っていると言うと思う?」と質問します。
⇒Aちゃん自身が、お菓子の箱に鉛筆が入っているという誤信念(鉛筆が入っているのにチョコレートだと誤解した)を理解しているかと、もう一つ、B子さんの誤信念を理解しているか(B子さんが誤解して「チョコレートが入っている」と答えることが推理できるか)を試します。
② 「サリーとアンの課題」
・サリーとアンはボールで遊んでいます。アンがボールを「かご」の中に入れて蓋をしました。サリーはその様子を隣で見ていました。アンが部屋を出ていったので、サリーは「かご」の中からボールを取り出し、「箱」に入れて蓋をしました。やがてアンが帰ってきてボールを取り出そうとするとき、「かご」と「箱」のどちらを探すでしょうか?
⇒正しい答えは、「かご」ですね。アンはボールが箱の中に移されたことを知らないはずだと理解できれば、自分でボールを入れた「かご」を探すでしょう。
これらの「誤信念課題」に対して、3~4歳の正答率は低いですが、5歳以上になると上昇し、7歳にかけて7割ほどになるため、「心の理論」が出てくるのは4歳くらいからだとされています。ASD(自閉スペクトラム症)児の中核的障害が「心の理論」の欠如にあるとされ、基本的にはASDは課題の通過が定型発達の子どもより遅れると言われています。
発達障害の一つASD(自閉スペクトラム症(以前は、自閉症スペクトラム障害と表記されていましたが、生まれつきの特性で障害ではないという考えに変わってきました))には2つの診断基準があります(以前は3つでしたがまとめられてきました)。①社会的コミュニケーションの障害。②興味と行動の偏り、こだわり(感覚敏感さや記憶の独特さなども含む)。
人とのコミュニケーションにおいて、前頭葉にある内側前頭前野が相手の反応や行動を判断する役割を担い、また、相手の表情や声のトーン、言葉の内容の食い違いなどの非言語情報を処理する働きも持っています。しかしながら、ASD特性を持つ人は、内側前頭前野の働きが弱く、言語的情報からだけでコミュニケーションをしがちです。そのため、「空気が読めない」「相手の気持ちが推測できない」となってしまい、社会的コミュニケーションに困難が生じると言われています。この内側前頭前野は「相手の心を類推する(読む)能力」をも備えていることがわかっています。
ASDと診断された人では、非言語情報を重視して他者の意図を判断する機能が弱いことがわかっています。その反面、不安感や恐怖感を抱く機能を担う「偏桃体」の活動が強いことも分かりました。このため、社会的コミュニケーションの障害が顕著であることがわかっています。ジョークや皮肉を汲み取れずに真に受けてしまうこともこういった理由からです。
心の理論は、発達段階の初期に子どもたちを取り巻く周囲の人たちとの様々なやり取り(コミュニケーション)をすることで発達すると考えられています。その子どもに適した方法やスキル、スタイルで周りの大人が関わっていくことが子どもたちの社会性を育むうえで重要になります。
「言わなくても分かるよね」「見れば分かるよね」は基本的には通じないのです。「こうしてほしいよ」「叩かれたら痛いよ」「悪口言われたら悲しいよ」と言語化して伝えないと分からないのです。「あなたは嫌いだ」と言われたらものすごく悲しいし、「大好きだよ」と言われたらとても嬉しい、ですよね?(笑)
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