(代表中里文子のコラム/2019.11.22)
「学習障害(Learning Disability, LD)とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。(旧文部省 1999年)」
これは、発達障害の一つである「学習障害」について文部科学省が定義したものです。現在では、「限局性学習症/限局性学習障害(SLD、Specific learning disorder)DSM-5」と呼ばれ、読み・書き・計算の領域において、重症度は軽度・中度・重度の3段階で評価します。
読みに困難があるものは「読字障害(ディスレクシア)」、書きに困難があるのは「書字障害(ディスグラフィア)」、計算(算数・推論)に困難があるのを「算数障害(ディスカリキュリア)」としています。苦手分野以外の知的能力に問題が見られないことが多いため、学習障害は発達障害の中でも判断が難しく、特に読み書きや計算能力は就学するまで障害に気づかないことも少なくないのです。中にはその人の学習困難が発達障害によるものではなく、単なる苦手分野だと判断され、大人になるまで気づかれないことも多くあります。
そもそも、発達障害(学習障害も含む)は、一般的な「苦手、不得意」と何が違うのでしょうか?発達障害は「病気」ではなく「障害」であるため、「治る」という方向では考えません。例えば、視覚障害や身体障害という考え方から捉えると分かりやすいかと思います。視覚に障害がある場合、視覚に代わり、他の感覚器官が視覚を補うほど優れていますね。視覚障害者の点字による触覚、または聴覚の鋭さや繊細さは真似できるレベルではないほどです。このように、視覚の困難を治すのではなく、それを補っていけるように支援することが障害者支援の芯になります。発達障害は、器官的な障害ではなく、「うまく機能しない」というように、機能障害であると言われています。
学習障害の人は一部の能力だけに困難がある場合が多いため、読む能力はあっても書くのが苦手、他の教科は問題ないのに数学だけは理解ができないなど、ある特定分野に偏りが見られます。
また、同じディスレクシアでも、ひらがなは問題なくても漢字が苦手など、その状態はさまざまです。一方、読字と書字の障害など、複数が併せて現れる場合も多く見られます。
例えば、人は一般的に脳内の情報を統合する領域において「文字」を自動処理していますが、ディスレクシアの人はこの文字処理がうまく行えず、通常とは違う脳の働きをしていることが明らかになっています。ディスレクシアの人の見え方はさまざまです。本人によると、「文字が躍る」「動く」「かすれる」などと表現します。
では、このような学習障害(もちろん、発達障害全体も)を持つ子ども(人)たちへはどのような支援ができるのでしょうか?「ノーマライゼーション」という観点で考えていくと、何ができるか、何をすればいいのかが見えてきます。ノーマライゼーションとよく比較される言葉に「バリアフリー」があります。バリアフリーとは、元々建築用語として使われていた言葉で、障害者、高齢者が安全に生活しやすくするための障壁などを取り除くという意味があり、デンマークのN.E.ミケルセン(1959)は、「ノーマライゼーションとは障害のある人をノーマルにすることではなく、彼らの生活条件をノーマルにすること」と定義し、障害者が一般市民と同じ条件のもとで生活する権利を訴えました。
今日では、障害のある人にもない人同様の平等な機会を保障するために、障害の状態や性別などを考慮して、必要かつ適当な変更及び調整を行うことを「合理的配慮」とし、実施されています。2016年4月1日に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)により、行政機関や事業者には、障害のある人に対する合理的配慮を可能な限り提供することが求められるようになりました。
例えば、ディスレクシアなどの人に対して、「文字の読み書きが困難な方が、タブレットや音声読み上げソフトで学習できるようにする」などがあり、大学入試の際にいくつかの大学では、別室でそのような対応を行うなど、すでに「合理的配慮」が実施され始めています。ただし、まだまだ十分どころか実施すら考えられていない教育機関も多数あり、試行錯誤の状態ではあります。
私は今、いくつかの「放課後等デイサービス」や「フリースクール」などの先生方へ向けて、発達障害児(者)の理解と支援について勉強会を実施しています。困難を持つ子どもたちが、自身の強みを武器に自尊感情を保ちながら笑顔で前向きに生きていけるよう環境を整えていくことが、私の目指すところです。私たち研究者が頑張らねばならないのでしょうね。
支援職の方向けのセミナー等、随時ご用意していきます。
それではまた。
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