(代表中里文子のコラム/2019.10.20)

日本語以外を母国語とする外国人にとって、日本語は非常に難しいといわれます。大ざっぱに会話をすることはできても、新聞や本などの文章を読む、特に日本語の意味を理解して「読み取る」ことは至難の業とまで言われます。

例えば、①「私は、汚れていた床を雑巾(ぞうきん)で拭きました。」と、②「私が、汚れていた床を雑巾で拭きました。」、③「私は、雑巾で汚れていた床を拭きました。」はそれぞれ日本語の意味が違います。英語でいうと、どれも「I wiped the dirty floor with a rag.」(google翻訳)になります。①は、「汚れていた床を雑巾で拭いた」のように、何をしたのかという「行為」が中心になります。②は、「私がした」という「誰が」ということが中心になります。③は、「雑巾で」というように、「何を使って」床を拭いたのかということが中心となります。

「ロボットは東大に入れるか(東ロボ)」プロジェクトで知られる人工知能(AI)研究者である新井紀子教授(国立情報学研究所(NII))は、「AIは国語が苦手」といいます。AIは問題を解き正答を出しますが、読んで理解しているわけではないといいます。AIは、膨大な検索を通じて、確率的にありそうなことを選び出す作業をするため、それができない「推論」「イメージ」「具体例」の3分野は不得意だといいます。

例えば、「一日10台の自動車を生産する工場が3日間操業した。さて、自動車は何台できたでしょう?」はAIにとって難解ですが、「10人が3個ずつりんごをもらった。りんごは全部でいくつ必要か」は解ける可能性はあるといいます。その違いは、掛け算のキーワードになる「ずつ」という言葉が出てくるか否かです。キーワードとして「10、3、ずつ」を読み取れれば、「10×3=30」が導き出せ、「ずつ」が読めない場合は、四則計算のどれを使えばいいのかわからず、答えが導き出せないといいます。

また、主語、動詞、目的語を必要とする英語などに比べ、日本語は非常にあいまいな言語とされています。例えば、ちょっと昔に「アタックナンバーワン」という女子バレーボールのアニメがあり、主人公「こずえ」はキツイ練習の中で、「涙が出ちゃう、だって女の子なんだもん」というセリフをこぼしました。「女の子なんだ」「女の子なんだし」「女の子なので」、そして「女の子なんだもん」。日本語には、特に語尾にその人の個性や性格、感情などが含まれている場合が多く、それを読み取ることはなかなか難しいことです。

そのほかにも、日本語には英語や他の言語に直訳できない表現がたくさんあります。「よろしくお願いします」「恐れ入ります」「お邪魔します」「お疲れ様です」「いただきます」「ごちそうさま」などはその例ですが、これらの言葉は日本の文化や習慣を反映しているものです。また、日本人にとってもあいまいで難しい言葉、例えば、「大丈夫」などは、YESなのかNOなのか迷います。文脈を読む必要がありますね。「一緒に車に乗って帰りますか?」「大丈夫です」???ですね。

先日、知人がこんな話をしていました。「親日家で武道家のアメリカ人から、‟What is Geri?”と聞かれて、「げり?ゲリ?下痢?」と困っていたら、‟Hiza-geri” “Tobi-geri”と言われて…(笑)ああ、「蹴り」ねと分かったけれど、日本語は難しいね」と。また、日本語の数え方も本当に難解です。大根は1本、キャベツは1玉、椅子は1脚、コーヒーは1杯なのに、お料理では1カップと数えて…。そのほかに、敬語もあり、漢字もあり、カタカナ(外来語?)もあり、ああ、本当に日本語は難しいですね。

子どもたちの学習を見ていると、AIのようにキーワード検索とパターンを駆使して日本語を読んでいる子が意外と多いことがわかります。だとしたら、先ほどの大根は1ぽん、2ほん、3ぼん…つまり、1のときは「ぱぴぷ…」の半濁音「゜」、2のときは「何もつけない」、3のときは「ばびぶ…」の濁音「゛」というように、パターンを読めばいいのでは? ただし、パターンを駆使した学習では、AIにはかないません。

絵文字やLINEスタンプなどで気持ちやメッセージを伝え、言語ではない感覚を通して相手の気持ちを読み取ることに慣れてくると、必ずそこには気持ちを「送る側」と「受け取る側」の齟齬が生まれてきます。言葉できちんと理解し相手に気持ちを伝えていく作業は、こころの健康と密接な関係があります。言葉にはならない感情を紡いで、心の中にある感情を言語化して吐き出していく、その作業こそがまさにカウンセリングなのです。不快な感情、苦しみや怒り、悲しみなど、安心で安全な場で吐き出していくことでカタルシス(心の浄化作用)が得られます。

それではまた。

中里文子


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