(代表中里文子のコラム/2020.6.22)

 

2020年4月より、柔道家トップアスリートの先生方を中心としたコラボレーション事業として、不登校児童生徒を対象とした「フリースクール」事業をスタートさせました。しかしながら、同時期から新型コロナウィルス禍の影響で教育関連活動もストップせざるを得ない状況になりましたが、その間、スタッフの先生方とじっくりフリースクールの内容吟味を行う時間が持てました。

平成28年12月に、不登校児童生徒への支援について初めて体系的に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(教育機会確保法)」が定められました。その中で、学校以外の教育機会の確保(居場所)の一つとして、「フリースクール」が挙げられます。現在では、文部科学省(教育委員会)においてカリキュラムが認定されると、フリースクールでの活動や学習が単位として認められるようになりました。

「志道館 フリースクール(港区港南)」https://shidokan-freeschool.com/の母体になる「文武一道塾志道館」は武道の一つである「柔道」を専門とした道場です。子どもたちの成長を考えた時、「基礎体力・心・学力」の3つの力をバランスよく育てることが大切であると館長の坂東真夕子先生は考えています。さらに、柔道がベースにはなっているものの柔道を体得することが目的ではなく、「柔道を通して生きる気力を育み、その上で必要なものを習得してゆく」と考えているのです。「志道館 フリースクール」では、基礎体力(柔道)・心(心理教育と心理的支援)・学力(学習)を子どもたちそれぞれに見合ったレベル、分量、好み、方法、目標などに合わせて、つまり、オーダーメイドで育てていきたいと考えています。

では、なぜ「柔道」なのでしょうか。「相手を敬い大切に、自分も大切に」、つまり、自分を大切にできなければ相手を大切になんてできないな、と柔道の「礼」や「受け身」という姿勢から感じます。これは、柔道に関して知識も乏しく経験もない私が柔道トップアスリートの先生方と接していく中で、「柔道の良さは何か」と考えた時にいきついた答えでした。柔道だからできることがあるのだと思います。

日本の教育的枠組みについて、「発生的認識論(genetic epistemology)」を唱えたスイスの心理学者(発達心理学)ジャン・ピアジェ (1896~1980)の視点で、特に発達という観点から「道徳観」について考えてみました。

子どもの道徳観には2つの発達段階があるとピアジェは述べています。第1段階は5~9歳頃(小学校低学年ころまで)に基準となる「他律的道徳観:行動の意図よりも結果を重視して善悪を判断する」と、第2段階9歳頃~(小学校高学年以上)の「自律的道徳観:絶対的な善悪は存在しないことを理解し、他人の視点からも考えられるようになる。他人の意図や状況も考慮に入れ、ルールや道義的責任、罰などについての判断力が大人に近づく」というものです。誤解を恐れずに言ってみれば、「他律的道徳観」は、規定の規則があってそれに従うという意味で「受動的(受け身)」であり集団主義には適していますが、もう一方の「自律的道徳観」は、行動の結果だけではなく意図や目的も考慮して善悪を判断するという意味で「能動的(積極的)」であり個を尊重する個人主義的な考えです。

日本の教育環境の文化的背景を考えると、やはり「集団主義的」な部分が多く、上下左右どちらに子どもの性格特性や気質的特徴が偏っても、つまり、他者と違っていると「異物」ととらえられがちです。いじめの問題の多さや、本音と建て前(裏表)の思考などは、そういった文化的背景によるところも多いのではないかと感じます。集団主義的な部分がメリットにもなることもありますが、他律的道徳観のように先生や大人から「教えられる」という教育よりも、むしろ子ども同士が遊びや関わりの中で自ら働きかけ、相互葛藤を解決していくことで、子どもは自分自身を発達させていくのだとピアジェは述べています。つまり、知識を身に付ける教育ではなく、知恵を生み出す力を育てることが、子どもの発達には重要になってきます。

不登校の原因は様々ですが、主には家庭要因と学校要因に分けて考えることができます。いずれにせよ、不登校の子どもたちやその家族は、「行きたくても行けない」現状に苦しみ、不安感や孤独感など社会とのつながりを保つために葛藤し苦しんでいることも多いため、学校・家庭・社会が寄り添い、共感し、受け入れ繋がっていくことが大切になります。

今回のコロナ禍における「STAY HOME」によって、子どもたちは皆誰もが不登校のような状況になりました。学校がまた動き出した今、改めて学校教育の在り方や他者との関わりについて再考していく良いチャンスであるとも言えます。こうした「今」だからこそ、それぞれの専門家が協働し、子どもたちの育成に知恵を注ぐ必要があると考えます。

引き続き、新型コロナウィルス感染拡大防止のため、当オフィスでのカウンセリング・セミナーは、リモートでのWebカウンセリングや大好評の内容のZOOMセミナーを複数ご用意してお待ちしております。併せて、万全の感染対策を最大限に取りながら、少人数の従来の形でのセミナーもご利用頂けます。HPなどチェックしてぜひご利用してみてください。皆様のこころとからだのご健康をお祈りしております。

それではまた。

中里文子


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