(代表中里文子のコラム/2019.6.20)

ひきこもり」という言葉は、たぶん皆さんは普段からよく耳にしていると思いますが、その実情をよく理解している人は少ないのではないでしょうか。社会現象となっているこの問題に、この国はどうして今一歩、その対策に取り組もうとしていないのでしょうか?そして、それほどひきこもりの問題は特殊なのでしょうか…。

ひきこもりの定義は、「自宅にひきこもって、社会的参加をしない状態が6カ月以上持続しており、精神障害がその第一の原因と考えにくいもの」(山田正弘:2007)とされていますが、内閣府調査では、ほとんど自室や家から出ない「狭義のひきこもり」に加え、趣味の用事のときだけ外出する人も含めた「広義のひきこもり」を推計しています。

ひきこもりは、大きな精神疾患や精神障害を伴わない場合でも起こり、しつけや家庭に問題があったのではないかと思う人も多いかもしれませんが、必ずしもそれと因果関係があるとはいえません。むしろ、表面的な問題のないようなごく一般的な家庭でもしばしば見受けられ、どの家庭でも起こりうるという特徴を持ちます。

例えば、「うつ病」などはっきりした精神科的な病気が診断されている場合であれば、それに対して治療や介入をすることができます。しかし、ひきこもりは定義の通り精神疾患、障害などがないにも関わらず起こり、また、社会参加できない状態が10年以上もの長期に及ぶ事も珍しくなく、最近になりようやく「5080問題」のように表面化されるようになりました。ひきこもりになってしまうと、社会的な適応度が著しく低下し、長期化するほど抑うつ症状や妄想などの精神症状や、また、鬱積した怒りや不満、衝動性の吐き出しと思われる二次的な問題行動(外に向えば他害や家庭内暴力、内に向えば自傷行為、自己破壊行為など)を引き起こしてしまう可能性もあり、大きな社会的問題へ発展する可能性も大いに見受けられます。

もちろん、あらゆるひきこもりを問題視するわけではありませんが、「放っておけ」「自己責任」で片づけてしまうのは、あまりにも無責任な気がします。だからこそ、「今、私たちができることは何か」について、真剣に考え取り組んでいくべきだと思うのです。まずは、研究や調査から読み取れる正確な情報を把握し、それに基づいて社会に向けて情報発信をし、抜け出したいと望む人(多くのひきこもりの人は「孤独」「疎外感」などを感じ、現状でいいとは考えていません)には適切な支援がなされるよう、まずは匿名で話せる専門家による無料相談窓口を整備し、支援に関する情報提供を行うことが重要だと思います。

人が成長していく過程で「自立」に向う時、まずは「親のようになりたい(またはなりたくない)」「親を超えたい」というように、ロールモデル(大人として自立する際の手本とする人)は親である場合が多いですが、その中で、「親を超えることの難しさ」が壁となることはあるでしょう。特に、地位や名誉、知名度が高い親を持つ子どもにとっては、超えるべきその壁は大きな試練やプレッシャーに違いありません。その挫折感をエネルギーに換えられる人はいいけれど、そのプレッシャーに押しつぶされてしまう場合も少なくありません。では、何がその時の潰れる潰れないかを決めていくのでしょうか?その人が持つレジリエンス(精神的回復力)であり、ストレッサーを跳ね返す力の強弱です。その力は、苦しい場面において、自分の胸の奥底に怒りや憎しみ、衝動性などの負の感情をため込まず、きちんとした手段で吐き出すことができるかどうかで養われてくるのです。人が、苦しい気持ちを必死の思いで吐き出したとき、無条件に肯定的に受け止め味方になってくれる存在、それが有るか無いかです。それは必ずしも親でなくてもいいのです。学校の教師でも、塾の先生でも、習い事の先生でも…先輩でも友達でもいいのです。もちろん、カウンセラーであれば、安全で安心な場所になるのでしょう。私が受けている「こころんホットライン(03-5565-4175)」無料相談電話にも、苦しいときに心の整理をするために掛けてきて、散々話して「じゃあまた」という人がいます。その人は電話で気持ちを吐き出すことで、また日常に向えるのでしょう。良い利用方法だと思います。

「あの日あの時あの場所で君に会えなかったら…」小田和正

「もしあの日雨じゃなければ、あの信号に間に合えば…」JUJU

「もし、あの日に戻れたら、例えばそんな未来もあったかもしれない…」カゲロウプロジェクト

昨今の、通り魔的な事件や事故などをみていると、思わずそう考えてしまう事ってありますね。「もしあの時、〇〇していれば…」「あの事件、あの時につながって声をかけてさえいれば…」

時は戻らないけれども、将来・未来の「その時」のために、今、出来ることを一つずつしていく、そう思いながら、相談メールに返信し、電話の向こうの声に耳を傾けています。人は社会的な生き物です。一人では生きていけないと思うのです。怒りの糸が切れないように、何とかつながっていたいと願わずにはいられない今日この頃です。

不登校やひきこもりなど、一人で考え込まずに、どうぞいつでもご相談ください。

それではまた。

中里文子


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