(代表中里文子のコラム/2019.5.20)

赤ちゃんや幼児が激しく泣いたり癇癪(かんしゃく)を起こしたりするとき、「疳の虫がいる」などと言われることがあります。「疳の虫」の「虫」って何でしょう?

医学についてまだ今ほど解明されていなかった昔は、病気の原因は体内にいる虫のせいだと信じていたようでした。針聞書(はりききがき:1568)という東洋の医学書には、疳の虫の「虫」について、「肝虫:肝癪(かんしゃく)の虫」としてその特徴と治療法が書かれています。「虫が好かない」「虫の居どころが悪い」などもその名残のようです。「腹の虫がおさまらない」という「腹の虫」も、肝臓に住み着いた「肝虫」が怒りの感情をもたらすとされています。

医学の進歩とともに病気の原因もわかってきましたが、わけもなく赤ちゃんや幼児が癇癪を起こしたように泣く症状は相変わらずよくわからず、しばらくは「虫のせい」にしてきました。「嫁のせい」「躾が出来ていないせい」「子どものせい」…にされず、「虫のせい(仕業)」にしたのは、当時の智恵だったのかもしれませんね。

「妖怪ウォッチ」でも、自分自身の意にそぐわないことを「妖怪のせい」と考えます。ある意味、これは心を守る手段としての心理学的メカニズム「防衛機制:欲求不満や不安感、受け入れがたい衝動などに陥ったときに、自分の心を平静に保つための心の働き」の一つである「外在化」ではないかと思われます。「外在化」という考え方は、心理療法の中で、問題解決に向けて問題に巻き込まれることなく効果的に働いていく一技法とされています。例えば「おねしょ」をしてしまったAくんがいるとします。

母「また、おねしょしたのね!本当にあなたは困った子ね!」といわれた子どもは、

A『また失敗しちゃった。ぼくはダメな子なんだ…』と、自己否定をします。

そこで、「外在化」を使います。

母「あれ?また『おしっこ獣』が出てきたの?困ったねえ、どうやって退治する?おしっこ獣の好物って何だっけ?」

A『えっと…水だよ!』

母「そうか、夜中におしっこ獣が暴れないようにエネルギーを奪ってしまえばいいね。寝る前にお水を飲んだらおしっこ獣がパワーをつけるから、お水は与えないでおこうね?」

A『うん、そうするよ!』

こうすることで、悪いのはAくん自体ではなく、Aくんの中に現れる「おしっこ獣のせい」になり、Aくんの自尊感情は保たれ、前向きに解決に向えるのです。

心理学や精神分析学などの知識が十分になかったのに、当時の人は潜在意識、無意識の領域をちゃんと想定して、「疳の虫がいる」「腹の虫がおさまらない」「虫の居どころが悪い」「泣き虫」「弱虫」などのように、心の中にいる「虫」が悪さをしたり、感情や考えを引き起こしたりすると考えていたようです。医学が発展し、色々なことが解明されてきた現在では、「虫」の正体は脳の神経伝達物質であるセロトニンなどの代謝トラブルであることが分かってきました。人間の脳の中でセロトニンの働きはとても大切です。セロトニンが欠乏すると、寝起きが悪くなり、一日中すっきりしない状態になります。また、ちょっとしたことで興奮し、キレやすくなります。その結果、よく眠れないなどの睡眠障害も見られるようになります。抑うつ症状は、セロトニン代謝と密接に関係しています。

また、自閉症はドーパミンとセロトニンの障害、ADHDやトゥレット障害はドーパミンの障害というように、脳の機能障害といわれる発達障害も、脳の神経伝達物質の障害と分かってきました。セロトニンに関しては、以前のブログで詳しく書いています。どうぞご参考にしてみてください。

赤ちゃんの夜泣き、疳の虫、お子さんの困った行動、不登校やひきこもりなど、子育てに関しては一人で考え込まずに、どうぞいつでもお気軽にお尋ねください。詳細は、HPを是非、チェックしてみてください。

それではまた。

中里文子


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