(代表中里文子のコラム/2020.1.24)
今や日本人の平均寿命は、男性81.25歳、女性87.32歳(厚生労働省、2019)とされ、海外のある調査によると、「2007年に日本で生まれた子どもの半数が107歳より長く生きる」と推計されており、日本は健康寿命が世界一の長寿社会を迎えています。1960年での日本人平均寿命が男性65.32歳、女性70.19歳だったことを考えると、わずか60年で16~17歳プラスの老年期を生きるようになったわけです。もちろん、この60年間で社会を取り巻く環境は大きく変化し、少子高齢化、医学の発展とともに長寿化、併せてテクノロジーの進化などがあり、それらによって人はプラスαの老齢期を手に入れることになりました。
65歳で現役引退して、残された人生を孫の世話をするなど次世代の子育てを手伝ったり、夫婦で共通の趣味を満喫して余生を楽しんだり…そう思い描くのもいいかもしれませんが、死を迎えるまで30余年もそうばかりしていられるのか、それで満足できるのか、と不安になるのも当然でしょう。しかも、そういった余生を過ごすには,ある程度の経済的基盤も必要だし…。人間、「やることがない」「生きる目的が見当たらない」ことほどしんどいことはないのではと考えてしまいます。
定年退職を65歳と仮定して、その先、手にした老後の30余年をどう生きますか、と考えた時に、どうしても外せない概念として「喪失体験」があります。親や配偶者などとの死別のみならず、健康な肉体や身体の機能低下、仕事役割での引退なども喪失体験になります。それに伴い「孤独」「孤立」も大きなテーマとなってくるでしょう。大ざっぱに言ってしまうと、老齢期の課題は、「喪失体験」「孤立」「孤独」のすべてを「肯定的に受容する」ということになると思います。ただ、このうち「孤立」は必ずしも受容する必要はないかもしれません。
「孤独」とは、寂しいといった個人内感情のことで、「孤立」とは社会的に孤立する、つまり、他者との関係性が乏しいことを言います。今、社会問題になっている「ひきこもり」という現象は、個人が何らかの理由で社会から「孤立」してしまうことで「孤独」に陥っている状態でもあるわけです。そしてこの「孤独」の感情は、健康にも影響を及ぼすことが分かってきました。孤独の感情により体内でストレスを感じ、炎症反応を引き起こして癌、認知症、うつ病、糖尿病などの病気発症や自殺のリスクになるとの研究もあります。別な見方をすれば、「他者と関わる」「やらなければならないことがある」「誰かに必要とされている」などの感覚がある人、つまり、孤立していずに社会的な生活を送っている人は、孤立している人より「生きがい」のようなものを感じやすいという意味で精神的健康度は高く、併せて身体的健康度も高い、ということになるのでしょうか。
アメリカの心理学者アブラハム・マズローが、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生き物である」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で理論化しました。自己実現とは、「(人は自分に適していることをしていない限り、すぐに新しい不満が生じて落ち着かなくなってくる。)自分の持つ能力や可能性を最大限発揮し、具現化して自分がなりえるものにならなければならないという欲求」とされます。マズローは、最初の4つの欲求(低次から、生理的欲求・安全欲求・社会的欲求・承認欲求)を欠乏欲求とし、それを十分に満たした者は欠乏欲求に対してある程度耐性を持つようになり、自己実現欲求(存在欲求)を目指すのだとしています。これらの「欲求」は、人間が生きるための力、いわゆる「本能」として備えているといっていいかと思います。
そう考えると、人は誰でもいつだって自分自身の可能性を信じ、成長し続ける生き物なのではないでしょうか。「まだ、自分には何かできるんじゃないか」と。
人生100年時代、老齢期の30~40年間をいかに生きるかについて考えた時に、様々な喪失体験を受容しながら、今まで生きてきた自身の人生の棚卸しをして自身の強みを確認しながらさらなる成長を目指し(自己実現)、人とのかかわりの中で学んだり、セカンドキャリアを目指したりしながら、「(ソロとしての)自身の人生」を楽しむことができる、ということが重要になるのかもしれません。一言で言ってしまえば、「孤独を楽しんで生きる力」が大事なのでしょうか。なぜなら、人は繋がっていても「孤独」を感じる生き物なのですから。
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