(代表中里文子のコラム/2023.9.1)

新型コロナウイルスに感染した人は、症状が治まった後に精神的な問題を抱えるリスクが高いというデータがあり(2022,ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)、驚くほど多く罹患者が回復後も頭にモヤがかかったような「ブレイン・フォグ」に悩まされています。感染から回復した人の約35%の人が、「気分の落ち込み」「疲労感」「無気力感」「不安感」などの精神症状を訴えたといいます。

感染によって数日~数週間にわたり日常生活が奪われたことによる精神的苦痛のほか、ウイルスに感染後には炎症性変化などの生物学的な要因(主に免疫系の炎症)で「うつ病」を発症するといわれ、コロナ罹患者のうつ症状への早めのケアが重要だとされています。

また、ウイルス感染によるうつ症状発症のリスクは、インフルエンザやEBウイルス(伝染性単核球症の原因となるヘルペスウイルス)などでも同様のことが起こりうるとの調査結果があり、以下の3つがその主な要因仮説とされています(2016,Brain, Behavior, and Immunity)。

  • ウイルスが脳に炎症を引き起こし、中枢神経系で炎症分子を作り出す免疫細胞のミクログリア細胞を活性化させている
  • ウイルスが血管の内膜を攻撃したために、脳に血液と酸素が十分に供給されなくなり、感情を制御する脳の領域に障害が起こる
  • ウイルスが腸内細菌叢を乱し、気分の制御に関わる、脳を含めた全身の神経シグナルのレベルが変わる

また、コロナ後うつになりやすい人の研究では、以下のような人が比較的コロナ後うつにかかるリスクが高いと考えられています。

  • うつ病や不安障害などの既往歴がある人:以前うつ病にかかったことがあるもののコロナ前には改善しているか、また、元々それほどうつ症状が深刻ではなかった人は、コロナ後にうつ病を再発し、症状が悪化しやすい。
  • 感染前から常に強いストレスがあった人、肥満、ぜんそく、高血圧、糖尿病などの合併症を抱えている人、新型コロナで重症化した人(2022,Journal of the Academy of Consultation-Liaison Psychiatry)
  • 長期にわたるコロナ後遺症の一つとしてうつ病を発症:記憶力、思考力、集中力に関する問題、気分の変化、疲労感、整理・管理能力の低下(薬やお金、通院予約等)などの状態が比較的だらだらと続く

また、コロナ後うつに関して明確な性差は見られないものの、新型コロナから回復した人のうち、男性の方が6カ月後に高いレベルの不安感とうつ症状を示し、12ヶ月後にはそれがさらに悪化していました。女性は、うつ症状が最も重かったのは感染直後で、6ヶ月後にはかなり回復し、その後徐々に快方に向かっていたという調査結果もあります(2022,Journal of Psychiatric Research)。

男性の方が炎症性免疫反応が強いという身体機能の問題もありますが、精神的な問題に関しては女性の方が男性よりも専門家のカウンセリングや相談につながる傾向にあることも、その理由として十分に考えられます。

「コロナ後うつ」が自然に回復するケースもありますが、何の手立てもせずに苦しみ続ける必要はありません。放置することは「うつ状態」をただただ長引かせ、長期化してしまうことにつながります。以下を試してみることをお勧めします。

・良い睡眠をとる:良い入眠習慣を身に付ける(寝る前には部屋の明かりを暗くし、デジタル画面を避け、同じ時間に寝起きする。入眠音楽やアロマなども効果的で、一貫した睡眠サイクルを維持する)。

  • 体が動かせる程度に回復してきたら、呼吸法を含む軽い運動(ストレッチやヨガなど)を定期的にする:運動機能には、抗炎症効果と抗うつ効果があります。
  • 社会とのつながりを持つ(孤立しない):友人・職場の仲間、家族などと連絡を取り合ったり、地域の支援グループ、自助グループなどに参加したりする。
  • 生活リズムを整える:決まった時間に3食食事をとり、夜早めに寝て朝に起きる、という基本的な生活リズムを保つ。
  • 健康的な食生活を実践する:果物、野菜、豆、ナッツ、未精製の穀類、魚、オリーブオイルが豊富な地中海料理は、うつ病の低リスクと関係しているという研究(2019,学術誌「PloS One」)もあります。

ただし、生活習慣の改善だけではなかなか快方に向かいません。「抑うつ症状」と感じたら、可能な限り専門家による心理カウンセリング(セラピー)を受けてみることをお勧めします。特に、「認知行動療法(CBT):否定的な思考パターンをより肯定的な思考に変えていく助けをする」や、「行動活性化アプローチ:目標を設定し、何か気分を向上させるような行動を促す」という実際の行動をプラスに促すような心理療法を受けてみることをぜひお勧めします。「我慢すること」は決して美徳でも得策でもありません。

当オフィスのカウンセリングやセミナーでは、引き続き万全の感染対策を取りながら、リモートでのWebカウンセリングや大好評の「自分探し講座」などのZOOMセミナー、専門職向けの講座などを複数ご用意してお待ちしております。HPなどチェックしてぜひ、弊社LINEに「お友達登録」してご利用してみてください。皆様のこころとからだのご健康をお祈りしております。

それではまた。

中里文子


こんなことでお悩みの方・・・・・専門家のカウンセリングを受けてみませんか?
カウンセリングでは、ご相談者様の生きづらさに寄り添い、その原因となった出来事に対するものの捉え方、感じ方など内的な感情に焦点を当て、各種心理療法(精神分析的心理療法など)を用いて、ご相談者様の心の側面について内省を促し、生きづらさを解決していきます。
● 自分のこと(家族や友人にも話せない心の悩み、ご自身性格のことなど)
● 家族のこと(親との関係、夫婦関係、子どもとの関係、子どもの発達障害など)
● 仕事のこと(ストレス、ハラスメント、職場の人間関係などなど)
● キャリアのこと(就職、転職、離職、復職など)
カウンセリング・心理検査のご案内はこちらから