(代表中里文子のコラム/2017.7.20)

米国の心理学者セリグマンは、マイヤーとの犬を用いた共同実験(1967)から、「長期間、回避不能な嫌悪刺激にさらされ続けると、その刺激から逃れようとする自発的な行動が起こらなくなる」という「学習性無力感(learned helplessness)」を提唱しました。

その実験は、電気刺激の流れる部屋の中に犬を入れ、一匹の犬Aはボタンを押すと電気刺激が止められる装置のついた場所、もう一匹の犬Bは何をやっても電気刺激を止めることのできない場所に入れたところ、Aはボタンを押すと電気刺激を回避できることを学習し、自発的にボタンを押すようになったが、Bは何をやっても回避できないため、やがて何も行動しなくなり、電気刺激を甘んじて受け続けたというものです。その後、電気刺激を回避できる部屋に二匹の犬を移し実験を続けたところ、Aは回避行動を自発的に行ったのに対し、Bは何も行動しようとはしませんでした。このことからセリグマンは、無気力状態とは学習されるものであることを発見し、この現象を「学習性無力感」と呼びました。

セリグマンは、この理論をヒトの行動に当てはめ、「自分が何をしても、状況は変わらない」という学習性無力感を抱いた状態と抑うつとの関連を検討しました。ヒトの場合の「嫌悪刺激」は、物理的なもののみならず、精神的なものが大きく占めるという特徴があります。

例えば、日常的に虐待を受けている子どもや、何年間も監禁状態に置かれた被害者などは、たとえ逃げられるような状況に置かれたとしても、逃げようとはしません。また、ブラック企業でのパワハラや長時間労働にさらされる場合も、逆に周囲からの反応がない(無視状態、孤立など)も同様です。たとえ逃げられる(辞められる)状況に置かれても「抗ってもムダ」と思い込み、期待を持ったり意欲がわいたりする可能性は低くなると考えられます。つらいと感じていても、「逃げ出す=会社を辞める」という選択肢が見えなくなるのです。

この「無力感」は、「こういう場合はこうなる」と経験の末に学習したものなので、その対策としては、「学習の消去」という方法を用います。ただし、完全に無力感を学習してしまう前の身体的SOSに気づくことが大切になります。例えば、イライラしたり眠れなくなったり、食欲が落ちたり、また『仕事に行きたくない』と思うことがあったり、このように感じるときがあったはずです。この状態は「うつ病」の一歩手前です。その時こそ、「心理療法」ができるカウンセリングにかかる時です。まずは、一緒にその人自身のやってきたことを振り返ります。その上で、「認知行動療法」によりステップを踏んで学習したもの(こと)を消去していくのです。一人ではない、一緒に自身の生き方について考えるので、安心なのです。私たちカウンセラーは、こころの専門家としてひとの心の声を聴きます。そして、話す勇気を受け止めます。

それではまた。

中里文子


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