(代表中里文子のコラム/2018.8.20)
心理学の潮流をたどると、人間の心の日常的に意識していない「無意識」の領域に焦点を当て、精神病理の理解や人格変容を目指した「精神分析」を第一勢力、人間性の目に見える「意識」の領域、つまり表層に表れる行動自体に焦点を当て問題行動の変容を目的とした「行動主義」を第二勢力、そして、人間を意識、無意識と一面的に見ることなく、全体をありのままとしてみていくことで人間の本来持つより健康的な自己回復力を信頼し寄り添うことを優先する「人間性心理学」を第三勢力としています。第二勢力であった行動主義では人間と他の動物を区別せず、一方、第一勢力とされた精神分析では人間の病的で異常な側面に焦点を当て研究しているため、人間性心理学の提唱者であるアルフレッド・マズローは、正常で健康な人間を対象とした人間性心理学を第三勢力として位置付けました。
第二勢力であり観察可能な行動の生起・変化を研究対象とする行動主義心理学は、行動科学とも呼ばれています。行動主義は、環境条件の変化や問題想起などの刺激(stimulus)に対する反応(response)としての行動(behavior)を研究対象とし、「S-R理論(Stimulus-Response Theory)」と呼ばれました。「パヴロフの犬」の名前で知られる唾液分泌の条件反射実験は、生理学的反射で唾液を分泌する「餌(無条件刺激)」を犬に与えるときに「ベルの音(中性刺激)」を聞かせると、やがてはベルの音だけで唾液を分泌するようになるというものです。餌、ベルの音が「S刺激」で、唾液分泌が「R反応」になります。
その後、行動のすべてをS-R理論で説明するのは難しいと考えた行動主義の心理学者C.L.ハル(C.L.Hull)は、S-R理論を改良したS-O-R理論(Stimulus-Organism-Response Theory)を提唱しました。刺激(S)と反応(R)の間にあるO(Organism:有機体)とは、人間・動物など生物個体に特有の内的要因であり、器質的、遺伝的、性格などの要因を含みます。S-O-R理論は、コンピューターに例えるとわかりやすくなります。S(入力)⇒O(情報処理)⇒R(出力)といったところでしょうか。Oの機能を加えることで、「なぜ、人は同一の刺激や状況において、人それぞれ異なる反応(行動)を取ることがあるのか」という疑問に答えることができました。この、S-O-R理論は、のちに「認知行動療法」へとつながります。
1970年代には、アーロン・ベックが認知療法を提唱しました。ベックは元々精神分析の研究をしていましたが、精神分析で扱うような根本問題ではなく認知(ものの捉え方)という意識的・表層的な事柄を変化させることが症状の消去に役立つと考えました。さらに、エリスの論理療法などが融合し、認知行動療法が確立していきました。認知行動療法では、O(認知)の部分の変容を目指します。
認知行動療法の基本モデルは以下の通りです。パニック障害の例です。
(a)人前で話した時に間違えてしまい笑われる【状況】⇒(b)また間違えて笑われるんじゃないか【認知】⇒(c)不安になる【感情】⇒(d)人前で話さなくなる【行動】⇒(e)不安減少する【感情】⇒(f)人と話さなくなる【行動】⇒(g)人と話すと笑われるだろう【認知】=不安障害(パニック障害)
ここでの認知行動療法の実施にはいくつかの技法が考えられます。実際には、(b)、(g)の認知の変容を目指します。「あれ?人と話しても笑われないんだ」という認知に修正していきます。ただし、認知行動療法では治療者とクライエントは一緒に協同して認知行動療法を行っていく(協同的経験主義)が主流となります。基本的には、クライアントとカウンセラーの関係は「対等」になります。行う場所は日常の中になり、宿題や課題が中心になります。
- 系統的脱感作
「脱感作」はリラクセーション(筋弛緩)になります。階層的に低い不安対象(スモールステップ)に暴露(晒す、慣れる)していく技法です。例えば、人前で話すことに不安な人は、身近な人と話をする⇒ 見たことのある人たち数人と話す⇒ 女性だけのグループと話す⇒ 人数を増やしていく…のように、小目標を重ねてクリアしていきます。
- エクスポージャー、暴露反応妨害法
不安や不快感を直視しそこから逃げずに感じ続け、徐々に慣れていくことを行います。例えば、対人恐怖の人には、何度も人前へ連れて行き発表させる、不潔恐怖の人が不潔と思うものを慣れるまで触り続けるなどです。ただし、極めて苦痛を伴うものなので、覚悟が必要になります。
認知行動療法は短期療法と言われますが、すべての人に100%うまくいく方法とは言えません。根本的な原因が内的なところに根深くある場合、精神分析的心理療法(カウンセリング)と併用していくことが効果的になります。
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