(代表中里文子のコラム/2017.6.20)

ドイツの哲学者M.ハイデッガーは、晩年の「技術への問い」という論文で、近代技術の本質を「Ge-Stellゲシュテル」と論じ、その日本語訳は「集-立」、英語訳は「en-framing」とされています。私には何語に訳されても難解でなかなか理解できませんが、その意味は、「技術が人間を生産に駆り立て、その人間は自然を人間に役立つものとして捉え、資源に利用する」というようです。つまり、「技術はあらゆる資源(人的・物的)を目標に向けて人間に‟役立つようにする”」ということだと思います。近代技術は、確かに資源を効率よく役立てるために開発されてきました。

カウンセリングをしていく中で、「私は生きている価値がない」、「何も人の役に立っていない」という言葉を耳にします。その方には、「何か人の役に立つことをしないといけない」という強い思いがあるのでしょう。そのことが、「役に立てない自分は存在する意味があるのか?」という自尊感情、自己価値の低下を導いています。

ハイデッガーも、「集-立のせいで、人間は真理だけでなく自分自身も見失ってしまう。その意味で、技術はそれ自体危険であるが、しかし、同時に人間を救うものでもある」としていて、技術(テクニック)という語が、ギリシア語のテクネー(高度な技、すなわち芸術)に由来したという点に着目し、現代技術との「自由な関係」を作ることを目的として位置付けています。

芸術、すなわち、絵画や彫刻や音楽や…それ自体が直接「役に立つ」ことはないのかもしれませんが、その存在自体に大きな意味があるのかもしれません。

「何かの役に立つ」というテーマはとても深く、高齢者が地域や社会でどのような役割を果たせるかという近年の「定年退職後の生き方」というテーマなどにも関連しています。

そして、「役に立つ」感覚というのは、人と人との関係、つまりコミュニティーの中でこそ生まれてくる感覚なのだと感じます。ただし、ここで重要になるのが「傾聴力」、「指示的でないこと」です。まずは、黙って受け止め(受容)、わかってあげる(共感)。これができるようになれば、すでに〔誰かの〕役に立っているはずです。

それではまた。


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