(代表中里文子のコラム/2018.5.20)

至高体験(peek experience)とは、アメリカの心理学者アブラハム・H・マズロー(Abraham Harold Maslow)が提唱した概念で、以下の特徴を持つ体験を指すといわれています。

・最も幸福と思える瞬間

・深い芸術的な体験(美の創造)

・完全なる性的体験(エクスタシー)

・深い愛情の実感(大きな愛)

・恍惚、歓喜、至福(ポジティブ感情)

・宇宙との一体感(自我超越)

・長続きしない(持続性)

また、マズローは至高体験を、「人生の最高の瞬間であり、魂の深部にまで響き渡るものであって、その体験がその人の人生を大きく変えるほどの影響力がある」と定義しています。もっとかみ砕いて簡単に言えば、「ああ、生きていて良かった!と心の底から感じられる瞬間」のことになります。その体験を通して、人生において生きる意味、自己の存在意義を見出すことが出来る、つまり、自己実現に向かう生き方ができるとされています。

昨日、私は他者の「至高体験」の2つの場面に遭遇しました。

一つ目は、アイドルグループ(ジャニーズ)のライブコンサートでのことです。訳ありそのライブに参加した私は、ペンライトを持たされることになり、皆と同じにふるまうようにとの指示に従いました。次の瞬間、会場を見渡したその光景には目を見張るばかりでした。一糸乱れずとはこのことでしょう。皆さんは命がけ(?)で応援するわけです。当然私も…。アイドルのひと言ひと言をかみしめながら聞き入り、時には涙する人も大勢いました。アイドルが右と言えば右を向き、愛しているよと言えば、キャーと倒れんばかりに絶叫するその瞬間は、まさにマズローが提唱した「至高体験」の定義の通りだったように思います。ファンの皆さんにとっては、本当に幸せを感じられる瞬間だったであろうし、生きている意味は十分感じ取れたのだと思います。「こういった経験ができる人たちは本当に素晴らしいな」と心から思えた瞬間でした。

二つ目は、昨日行われた浅草の三社祭でのことです。半纏を着て、天を仰ぎ、汗にまみれ、赤く腫れあがる肩をものともせずに、「セヤ、セヤ」と声を張り上げ一心不乱に神輿を担ぐ姿は、神憑りのようでもありました。江戸っ子が命懸けで神輿を担ぐ体験も、また、「至高体験」ではないのかなと感じました。

人々がどのようなことに価値をおいて生きていくのかは、人それぞれです。「至高体験」とは、個人として経験しうる「絶頂=ピーク」の瞬間の体験のことであり、深い愛情の実感やエクスタシーのなかで得られる体験かもしれません。あるいは、芸術的な創造活動や重要な仕事を完成させたときの充実感のなかで得られる体験かもしれません。ひとりの人の人生の最高の瞬間であり、魂の深い部分を震撼させ、人生を変容させるほどの大きな影響力を秘めた体験でもあるといわれます。

女性にとって、「出産」は至高体験になりうるといわれています。いずれにしても、至高体験の瞬間は一時的にせよ、「自己実現」に向かう存在であるわけです。これは、脳内麻薬、つまり神経伝達物質であるアドレナリン、ドーパミンなどの作用と密接にかかわっているのですが…。快感は、同時に意欲をもたらします。

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それではまた。

中里文子


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