(代表中里文子のコラム/2018.4.20)

コンプレックス(complex)とは、「感情複合」「複合観念」と呼ばれ、精神分析(心理学の学派の一つで、人の心の無意識の領域に焦点を当て分析する)で使われる概念です。精神分析を提唱したS.フロイトは、人の心は意識、無意識、前意識の三つの構造から成り立つとしました(局所論)。意識は、自分で意識でき自覚できる部分で、無意識は、自分では意識できない部分、前意識は、思いだそうと思えば思いだせる部分という概念を提唱しました。コンプレックスは、その無意識のなかに抑圧され(出てこないように閉じ込められ)、固着してしまう(ずっと居座って消えない)がために、意識された精神生活に影響を与え、ときに強い感情や情動を引き起こす観念の複合体のことを指します。精神分析学派の中でもさまざまな解釈があり、抑圧を重視する古典派のフロイトのほかに、優越感や劣等感に焦点を当てた、ユング(タイプ論:内向、外向。自分の優れた面や弱い面を認識することが自己を高めることにつながると考えました)や、アドラー(個人心理学:劣等感ということに端を発し、人は、原因によって行動するのではなく目的によって行動しているのだとします)などの学派があります。コンプレックスには、エディプス・コンプレックスやエレクトラ・コンプレックス、マザー・コンプレックスなどがあります。コンプレックスは日常生活のなかにも現れますが、また神経症といった症状を形成することもあります。

コンプレックスの中で、わりと多くカウンセリングの中で語られるものに、「学歴コンプレックス」があります。2017年Net調査(全国20~60代男女555名)によると、学歴コンプレックスについて感じたことがある人の割合は「38.0%」、ない人は「62%」で、ある人の中で、年収~300万円(31.1%)、300~500万円(44.9%)、500~700万円(61.8%)700万円以上(39.1%)であり、男性は52.7%、女性は31.7%となっています。学歴コンプレックスを感じやすいのは、年収500~700万円で最も多く、上場企業の平均年収(東京商工リサーチ2014)が604万円であることからすると、出世争いで同僚との比較が多い男性層が当てはまるのだろうと考えられます。

コンプレックスと似た概念に劣等感がありますが、劣等感は他者との比較から自身が劣っていると感じる劣等性を意味します。コンプレックスを考えてみると、ただ単に人より劣っているという感情だけではなく、その劣っているという感覚に、怒りや悲しみ嫉妬、憎しみなどの強い感情が無意識的に結びついています。つまり、学歴コンプレックスには、単に他の人との比較で学歴が低いということだけではなく、背景に学歴とは関係のない神経症(ノイローゼ)的なメカニズムが複雑に、あるいは複合的に働いて表出していることがわかります。神経症の代表的なものに不安障害があり、これは不合理だとわかっていながら現れる強い不安や強迫観念、抑うつ、ヒステリーなどの不適応行動を特徴とします。現在では単独で神経症という言葉は使わず、不安神経症(パニック障害、全般性不安障害)と、強迫神経症(強迫性障害)として用いられています。

学歴コンプレックスからの脱却方法としてベースになるのは、「自己肯定感」になりますが、その中心となる概念には「アイデンティティの確立」ということが挙げられます。アイデンティティとは、「自分とは何者か、自分はこの社会で生きていく価値があるのか」といった感覚を意味します。アイデンティティが危機に陥ると自己喪失、つまり、自己否定につながります。自己肯定感を高める方法の一つに、何歳になっても大学や大学院などの学びに再チャレンジすることが挙げられますが、また、資格試験取得にチャレンジすることも効果的な方法と言えます。

平均寿命が延びた今日では、「セカンドキャリア」について真剣に考える時間を持つことは重要かもしれませんね。

臨床心理士、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー等、ご自身にあったカウンセリングを受けてみるのも意味があります。まずはご相談にいらしてみてください。

それではまた。

中里文子


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