(代表中里文子のコラム/2016.12.20)
フラート(flirt)という言葉がありますが、一般的には、「愛の駆引き、誘惑」を意味するフランス語だそうですが、なかなかうまく説明できない曖昧さが含まれています。簡単に言えば、フラートとは、「恋の戯れ、恋の真似事」とも理解できますが、実際にはもっと軽い感じです。たとえば、相手を誘惑する目つきとか、さりげない誘いの言葉の応酬とか、ちょっとしたふれあいとか、言葉、視線、動作・仕草などが含まれた恋愛以前の段階の上手く言い表せない「感じ」のことを指します。
主に日本と英語圏の国(ラテンの国を含む)では、男女の関わり方や男女が恋愛関係になるまでの過程において違いがあるように思います。欧米では、「今はフラートな関係を楽しんでいる」というようなことはよくあることだろうけれど、日本人は残念ながらそれがありません。マジメな日本人は、とかく男女関係を「友情か恋愛か」「告白するかしないか」という極端な二分法で捉えようとします。たとえば欧米では、男性がドアを先に開けてあげるなど、母親は息子に女性を喜ばすエチケットを教育の一環として教えこむぐらい、大人になるにおいて大切なもののようです。
シャネルココやディオールのルージュには「フラート」というネーミングが使われています。なまめかしい輝きを演出する口紅にはそのような名前をつけたくなるのも、何だかわかるような気がしますよね。
その「フラート」という言葉は、心理学の中にもある概念です。ただし、誘惑や駆け引きといった意味合いとは、多少違っていますが、「妙に気になる感じ」のようなものを指しています。プロセス指向心理学(ユング派ミンデルが創始)では、この「フラート」という感覚を大事にします。プロセス指向はユング心理学をベースとしているので、ユングの「共時性(シンクロニシティ)」という概念を応用しています。この共時性は「必然の偶然」と呼ばれるもので、この偶然が起きるときには、「何か胸騒ぎがする」とか「妙に気になるなあ」とか、そういった感覚が生じます。この感覚が「フラート」です。
日常生活の中で、「フラート」を無視せずに、‟ちょっと付き合ってみる・寄り添ってみる”ことで、人生が何倍にも豊かになるのです。「なんかこれって気になるよなあ…」と突き詰めていったら大きな事業に展開していったり、「なんかあの人は気になる」と話しかけてみると運命の人だったり…。「必然の偶然」ってこういうことなのでしょうね。
それではまた。
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