(代表中里文子のコラム/2020.8.20)
最近のコロナ禍における在宅勤務の中で、一人きりで考える時間が増えてきました。「物思いにふける」時間もたくさんあり、そんな時は頭の中が「哲学的な思考」になります。
先日、家族のバースデーでケーキを取り分けて食べていると、ケーキの上の誇らしげな「いちご」を最初に食べてしまう人と、お皿の横に置いておき、あとからじっくり食べる人がいることに気づきました。「面白いなあ~」と感じながら、翌朝、メールチェックをしていると、知人からのメールに井上陽水さんの懐かしい曲が添付されてありました。それを聴きながら、陽水さんの曲で私が大好きな曲「つめたい部屋の世界地図」の中にあるフレーズを思い出しました。「…「こんにちは」のあとは すぐに「さようなら」…」という部分が妙に心に残り、出会ったら途端に別れを想定する、つまり、「存在」と同時に「喪失」を想定するんだな…と考えました。
陽水さんの歌の歌詞の中には、「始まりと終わり」を想起させるフレーズがよく出てきます。その感覚こそが、彼の「センチメンタル」な感情を引き出させているのだなあ、と感じます。例えば、「白い紙飛行機 どこへ行くのだろう?白い紙飛行機 どこへ落ちるだろう?」「夏まつり」「蝉の声」「シャボン玉」など、「生まれては消える」切なさやはかなさを感じてしまうのは、「終わりへの恐怖」を想起させるからでしょう。
そもそも、「始まりと終わり」「最初と最後」とは何を意味しているのでしょう?その持つ意味を考えていくと「有期(有限)」にたどり着きます。無限ではなく「有期」、そこに、儚さ(はかなさ)やセンチメンタルな感情、しいては恐怖を感じてしまうのは、「終わり」を意識してしまうからなのかもしれません。もしかしたら、この感覚は日本独特な感性なのかもしれません。それは、仏教的な考えはあっても、キリスト教やイスラム教などのメイン宗教が日本人の中になかったことと関係があるかもしれません。日本の中で主要な哲学者が次々と現れなかったのも、「神様、仏様、おてんとうさま…どうかお願いします」と分からないことや困ったことは総称としての「かみさま」にお願いしてしまえばよかったし、何かが起これば「かみさま」のせいにしてしまえばよかったという経緯からかもしれません。
新約聖書「ヨハネの黙示録」の中で、「alpha-omega」という言葉出てきます。「始まりと終わり」という意味ですが、似た言葉では「A to Z」があります。しかしながら、omegaやZに切なさや儚さ、恐怖といった悲観的な印象がないのは、終わりのその先、「神様のもとへ行く」という新たな始まりを暗示し、また、「永遠」を想起させるからかもしれません。
心理学に偉大な功績を残した精神分析の創始者であるS.フロイトは、「生と死」の概念について、人間の持つ「本能」の側面から説明をしています。
人は、「生」を得ると同時に「死」に向かう存在であるとし、「性(生)の欲動:エロス」と「死の欲動:タナトス」の二元論で説明しました。「死の欲動」には抵抗があるかもしれませんが、「死にたい気持ち」「自己破壊的・自己処罰的行為(自傷行為、薬物などの依存、治療の拒否、しいては自殺行為など)」を含めて、「快楽原則の彼岸(1920)」論文をもとに「死の欲動理論」は、それ以降のフロイトの理論を改定していく土台となっています。「死の欲動」の概念は、主に「攻撃性」や「怒り」として考えられ、マゾヒズムやサディズムの発生機序を捉えるためにも用いられます。人間の行動の不可解な部分、例えば、「自己破壊行為」などは、この概念により説明可能とされています。精神分析の世界は、何と深く面白いことか…
ちなみに私は、「いちご」は最初に食べてしまう派です。「失う」恐怖に耐えられないからです。あとで食べる派の人たちがどんなに「いちご」を大事そうに眺めながらケーキを食べていようと、「羨ましい」と思ったことは一度もありません。なぜなら、「いちご」を最初に食べてしまうことで、「喪失」の恐怖から解放されるからでしょう。この話を家族にしたら、「あなたの話はいつも”面倒くさい”」と言われてしまいました…(笑)
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それではまた。
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